製造業のAI活用|外観検査・品質管理・予知保全・生成AIの使いどころと、中小製造業でのAI導入の進め方

「目視検査の担当者が高齢になり、後継者がいない」「不良の原因を追いたいが、データがばらばらで調べられない」。中小製造業では、人手不足と技術の継承が大きな課題です。AIの話題も増えましたが、画像で検査するAIと、ChatGPTのような生成AIでは、得意なことも準備の仕方もまったく違います。
この記事では、製造業でAIを使う代表的な場面として、外観検査、品質管理、予知保全、生成AIの4つを取り上げ、それぞれでできること、必要なデータ、導入の進め方を整理します。経済産業省が中小企業向けに公開している「AI導入ガイドブック」の内容も参考にしています。
- 製造業のAIは、画像やセンサーの数値を扱う「従来のAI(機械学習)」と、文章を扱う「生成AI」で、向いている業務が分かれます。
- 外観検査AIは、撮影の条件をそろえることと、良品・不良品の画像を集めることが精度を左右します。カメラやAIの性能より先に、撮影環境を整えます。
- 予知保全は効果が大きい反面、故障の記録やセンサーのデータが一定期間たまっていることが前提です。まずはデータを取る仕組みから始める会社も多くあります。
- 生成AIは、技術文書の検索、作業標準書や報告書の下書き、不具合情報の整理など、文章が多い業務で使いどころがあります。
目次
製造業のAI活用とは
製造業のAI活用とは、検査・品質管理・設備保全・生産計画・技術文書の扱いなど、ものづくりの現場の判断や作業の一部をAIに任せ、品質の安定と省力化をはかることです。
製造業で使われるAIは、大きく2つに分けられます。1つは、画像やセンサーの数値から「良品か不良品か」「いつもと違う動きか」を判断する、機械学習を中心とした従来のAIです。もう1つは、文章を読み書きする生成AIです。生成AIは、大量の文章で学習したLLM(大規模言語モデル)を使い、質問への回答や文書の下書きを作ります。
製造業でのAIの主な使いどころ
| 場面 | 使うAI | 主なデータ | できること |
|---|---|---|---|
| 外観検査 | 画像認識(機械学習) | 製品の画像 | キズ・汚れ・欠けなどの検出、良否の判定 |
| 品質管理 | 機械学習・統計 | 検査結果、製造条件、ロットの記録 | 不良の傾向の把握、不良につながる条件の分析 |
| 予知保全 | 機械学習(異常検知) | 振動・温度・電流などのセンサー値、故障の記録 | いつもと違う状態の検知、故障の予兆の把握 |
| 需要予測 | 機械学習 | 受注・出荷の実績 | 生産計画や資材手配の参考になる予測 |
| 技術文書・報告書 | 生成AI | 作業標準書、過去の不具合報告、図面の注記など | 文書の検索・要約、報告書の下書き |
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外観検査:AI画像認識でできること
外観検査は、製造業でAIの導入が進んでいる分野の1つです。カメラで撮影した製品の画像をAIが見て、キズや汚れ、欠けなどがないかを判定します。人の目視検査は、疲れや個人差で判定がぶれやすく、熟練した検査員の育成にも時間がかかります。AIは、同じ基準で判定を続けられるのが強みです。
2つの作り方:不良品の画像を使うか、良品だけで作るか
外観検査AIの作り方には、良品と不良品の両方の画像で学習させる方法と、良品の画像だけで学習させて「いつもと違うもの」を見つける方法があります。経済産業省のガイドブックも、この2つを別冊に分けています。
「外観検査(部品、不良品あり)」のガイドブックでは、良品は50個を各5枚撮影して250枚以上、不良品は不良の種類ごとに20個を各5枚撮影して約100枚が目安とされています。不良品が十分に集まらない場合は、良品だけで学習させる方法を検討します。ただし、同ガイドブックでは、良品のみで作る方法はプログラミングの知識が必要で難易度が高いとされています。
精度を左右するのは撮影環境
外観検査AIの精度は、AIの性能よりも、撮影の条件で決まることが多くあります。同ガイドブックでは、次のような点が挙げられています。
- カメラの設定と距離を固定する:ピント、絞り、シャッター速度、製品との距離を毎回そろえます
- 照明を検査現場と同じにする:学習用の撮影と本番の検査で、光の当たり方を変えないようにします
- 背景と製品を区別しやすくする:背景は製品と違う色にし、指やほこりが写り込まないようにします
- カメラは安価なものから試す:ウェブカメラで試し、キズが鮮明に写らない場合に高性能なカメラを検討します
品質管理・予知保全:データから兆しをつかむ
品質管理
品質管理でのAIの役割は、検査結果と製造条件(温度、圧力、材料のロット、作業者、設備など)を結びつけて、不良が出やすい条件を見つけることです。ただし、そのためには「どのロットを、いつ、どの設備で、どの条件で作ったか」が記録され、検査結果とつながっていることが前提です。紙の記録やExcelがばらばらに残っている状態では、AI以前に、データを集めてつなぐ作業が必要になります。
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予知保全
予知保全とは、設備の振動・温度・電流などのデータを見て、故障が起きる前に兆しをつかみ、計画的に保全する考え方です。突然の設備停止を防げれば、生産計画の乱れや納期遅れを減らせます。
一方で、予知保全は準備に時間がかかる分野です。設備にセンサーを付けてデータを取り続けること、故障や修理の記録を残していることが前提になります。故障がめったに起きない設備では、「故障の前にどんなデータになるか」の例が少なく、AIが学べることも限られます。そのため、まずは「いつもと違う状態」を知らせる異常検知から始め、記録を積み重ねながら精度を上げていく進め方が現実的です。
生成AIの使いどころ:文章が多い業務
生成AIは、画像の良否判定や設備の異常検知には向きません。一方、製造業の現場には、作業標準書、過去の不具合報告、顧客からの品質の問い合わせ、技術資料など、文章の情報が大量にあります。こうした業務では、生成AIが役に立ちます。
技術文書の検索は、ベテランの知識を若手に引き継ぐ手段としても期待されています。ただし、もとの文書が古い、版がばらばら、写真や手書きのメモにしか情報がない、といった状態では、AIも正しい答えを返せません。生成AIの導入は、文書の整理とセットで進めるものと考えておきます。また、図面や技術情報は機密性が高いため、入力したデータが外部の学習に使われない環境を選ぶことも欠かせません。
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月に約3万個の樹脂部品を生産し、検査員3名が目視で外観検査をしている会社を想定します。1個あたり平均4秒で検査しているとすると、3万個×4秒=月約33時間です。
AIで全数を判定し、AIが「不良の疑いあり」とした製品と、判定に迷った製品だけを人が再確認する形にしたとします。再確認の対象が全体の5%(1,500個)で、1個10秒かかるとすると、再確認は月約4時間。検査にかかる時間は月約29時間減る試算です。ただし、撮影装置の調整や、AIが見逃していないかを確かめる抜き取り検査の時間は別に必要です。
うまくいく条件:対象を不良の種類がはっきりした1品目に絞って始めること。撮影の条件を固定し、検査員が「不良」と判断した画像を記録として残していくこと。
つまずきやすい点:品目を一度に広げすぎること。照明や治具を変えたときに精度が落ちること。また、検査員の判断基準が人によって違い、学習用の「正解」がそろわないことです。
導入の進め方と、自社でできること・頼むべきこと
製造業のAI導入は、AIの選定から始めるより、困りごとと対象を絞るところから始めるほうがうまくいきます。経済産業省のガイドブックでも、企画、データの取得、モデルの構築、導入・運用という段階で進め、導入後も定期的に再学習することが示されています。
- 困りごとと対象を絞る「どの工程の、どの製品の、どの判断を楽にしたいか」を1つに決めます
- データの有無を確かめる画像、検査記録、センサー値、不具合報告など、使えるデータがどこにどれだけあるかを確認します
- 小さく試すPoC(概念実証)として、限られた範囲で精度と運用のしやすさを確かめます
- 現場の手順を作り直すAIの判定結果を誰がどう確認するか、例外の扱いを決め、作業の手順に組み込みます
- 運用しながら改善する製品や設備の変化に合わせて、再学習や基準の見直しを続けます
AIの効果を出すには、検査結果や製造条件を記録し、あとから引き出せるデータの基盤が欠かせません。生産管理やトレーサビリティの仕組みづくりから着手する会社も多くあります。
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検査結果の記録やトレーサビリティなど、AIの前提となるシステムの費用感は、開発費用の概算シミュレーターで、いくつかの質問に答えるだけで目安を確認できます。登録は不要です。
よくある質問
- 外観検査AIを入れれば、検査員は不要になりますか?
- すぐに不要になるとは考えないほうが安全です。AIが判定に迷ったものや、不良の疑いがあるものの再確認、AIの見逃しを確かめる抜き取り検査などは人が担います。検査員の負担を減らし、判断が難しいものに集中してもらう形を目指すのが現実的です。
- 不良品がほとんど出ない製品でも、外観検査AIは使えますか?
- 良品の画像だけで学習させ、「いつもと違うもの」を見つける方法があります。ただし、経済産業省のガイドブックでは、この方法は不良品の画像を使う方法より難易度が高いとされています。試す前に、対象と判定基準をよく絞り込むことが大切です。
- 予知保全を始めるには、どんなデータが必要ですか?
- 設備の振動・温度・電流などのセンサーのデータと、故障や修理の記録が必要です。データが十分にたまっていない場合は、まずデータを取る仕組みを作り、異常検知から始めるのが現実的です。
- 図面や技術資料を生成AIに入れても大丈夫ですか?
- 図面や技術資料は機密性が高いため、入力したデータが学習に使われない契約・設定のサービスを選び、社内のルールを決めてから使います。取引先から預かった図面は、契約で利用の範囲が決まっていることもあるので確認が必要です。
- AIの導入に補助金は使えますか?
- 国や自治体の補助金・助成金が使える場合があります。対象となる経費や要件は制度ごとに異なり、年度によって変わるため、公募要領で最新の情報を確認してください。
まとめ
製造業のAI活用は、画像やセンサーの数値を扱う従来のAIと、文章を扱う生成AIで、使いどころが分かれます。外観検査は撮影環境と画像の収集が、予知保全は故障の記録とセンサーデータの蓄積が、生成AIは文書の整理が、それぞれ成功の前提です。まずは困りごとと対象を1つに絞り、使えるデータがあるかを確かめるところから始めましょう。
関連記事生産管理システムの開発|中小製造業がパッケージ・自作と比較する判断基準と費用
参考:経済産業省「AI導入ガイドブック 外観検査(部品、不良品あり)」(2021年3月)、経済産業省「中小企業のDXに役立つ『手引き』と『AI導入ガイドブック』を取りまとめました」(2022年4月8日)。
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