• AI・最新技術

RAGの精度が出ない原因と改善策|社内文書AIのつまずきどころと「探す・答える」の切り分け方・評価方法

RAGの精度が出ない原因と改善策|社内文書AIのつまずきどころと「探す・答える」の切り分け方・評価方法

「社内のマニュアルをAIに読ませたのに、肝心なところで違う答えが返ってくる」「書いてあるはずのことを『見つかりません』と言われる」。社内文書を参照して答えるAI(RAG)を試した企業から、よく聞かれる悩みです。AIの性能が足りないように見えますが、実際には、文書の状態や探し方に原因があることがほとんどです。

この記事では、RAGの精度が出ない原因を、専門用語をできるだけ使わずに4つの段階に分けて整理し、それぞれの改善策を解説します。自社で確かめられることと、専門の会社に頼んだほうがよいことも分けて紹介します。RAGの構築費用については、別の記事で詳しくまとめています。

この記事の結論
  • RAGの精度は、「正しい文書を探せたか」と「探した文書から正しく答えたか」の2つに分けて考えると、原因が見つけやすくなります。
  • 精度が出ない原因の多くは、AIではなく文書の状態(古い版、表や画像、社内用語)と探し方にあります。
  • 改善の前に、正解のわかっているテスト質問を用意し、変更のたびに同じ質問で比べることが欠かせません。
  • 文書の整理とテスト質問づくりは自社で進め、検索方法の調整、評価の仕組みづくり、権限の制御は専門の会社に頼むと確実です。
目次
  1. RAGとは、「精度が出ない」とはどういう状態か
  2. 原因1:文書の状態が整っていない
  3. 原因2:探し方が合っていない
  4. 文書の区切り方(チャンク)が合っていない
  5. 意味の検索だけに頼っている
  6. 質問があいまい・短すぎる
  7. 原因3:答えさせ方が合っていない
  8. 原因4:精度を測る仕組みがない
  9. 想定ケース:施工マニュアルに答えるAIの精度改善
  10. 自社でできること/専門の会社に頼んだほうがよいこと
  11. よくある質問
  12. まとめ

RAGとは、「精度が出ない」とはどういう状態か

RAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)とは、質問に関係する社内文書をまず検索し、見つかった文書の内容をAIに渡して、その内容をもとに答えを作らせる仕組みです。AIが学習していない社内のルールや製品情報にも答えられるのが特長で、社内チャットボットや社内文書検索によく使われます。

RAGの処理は、大きく「探す」と「答える」の2段階に分かれます。そのため、「精度が出ない」には2種類あります。

探す段階の失敗質問に関係する文書を見つけられない、または関係の薄い文書を拾ってしまう。
答える段階の失敗正しい文書を見つけたのに、読み違える、まとめ方を誤る、文書にないことを付け足す。
見分け方回答と一緒に「どの文書を参照したか」を表示すれば、どちらの段階で失敗したかがわかります。

参照した文書が正しいのに答えが間違っているなら「答える段階」、参照した文書がそもそも違うなら「探す段階」の問題です。この切り分けをせずにAIへの指示だけを何度も直しても、改善しないことがよくあります。

原因1:文書の状態が整っていない

RAGの精度に最も大きく影響するのは、参照させる文書そのものです。人が読んでも迷う文書は、AIも読み違えます。

  • 古い版と新しい版が混ざっている:改定前の規程を答える原因になります。最新版だけを残し、更新日を記録します
  • 表・図・画像に情報がある:PDFの表が崩れて読み込まれたり、画像の中の文字が読まれなかったりします
  • スキャンしたPDFが多い:文字のデータがないため、文字を読み取る処理(OCR)が必要です
  • 同じ話題の文書が複数ある:部署ごとに似たマニュアルがあると、どれを答えるべきかAIが判断できません
  • 社内用語・略語が多い:質問では正式名称、文書では略語、といったずれで検索に引っかかりません
  • 答えが文書に書かれていない:ベテランの頭の中にしかない情報は、RAGでは答えられません

こうした文書の問題は、AIの設定では解決できません。まずは問い合わせの多い分野の文書から、最新版の整理、表の書き直し、用語集の作成を進めるのが近道です。

原因2:探し方が合っていない

RAGでは、文書をそのまま丸ごと探すのではなく、一定の長さの「かたまり」に区切ってから探します。このかたまりを「チャンク」と呼びます。探し方の問題は、主に次の3つです。

文書の区切り方(チャンク)が合っていない

区切りが細かすぎると、前後の文脈が切れて意味がわからなくなります。逆に大きすぎると、関係のない内容が混ざります。見出しの単位で区切る、表は表ごとにまとめる、区切ったかたまりに文書名や章の名前を付けておく、といった工夫で改善することがあります。

意味の検索だけに頼っている

RAGでよく使われる「ベクトル検索」は、言葉の意味の近さで文書を探す方法です。言い回しが違っても探せる反面、品番や型番、規程の条番号のような正確な文字列での検索は苦手なことがあります。従来のキーワード検索と組み合わせる「ハイブリッド検索」や、部署・文書の種類などの情報で絞り込む方法が有効です。マイクロソフトの技術ガイドでも、全文検索とベクトル検索の組み合わせや、キーワード・カテゴリーによる絞り込み、検索結果の並べ替え(リランク)が改善策として紹介されています。

質問があいまい・短すぎる

「交通費は?」のような短い質問では、どの文書を探せばよいか定まりません。質問をAIに言い換えさせてから検索する、複数の質問に分けて検索する、といった方法があります。利用者に「質問の例」を見せることも効果があります。

原因3:答えさせ方が合っていない

正しい文書を見つけても、答え方の指示(プロンプト)が適切でないと、間違った答えになります。

  • 文書にないことを補ってしまう:「参照した文書に書かれていないことは答えない」「わからない場合はそう伝える」と指示します
  • 根拠を示していない:回答と一緒に文書名や該当箇所を表示し、利用者が確かめられるようにします
  • 渡す文書の数が合っていない:少なすぎると情報が足りず、多すぎると関係のない内容に引きずられます
  • 数字や条件を要約で崩してしまう:金額・日数・条件は文書の表現をそのまま使うよう指示します

生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を返すことがあります。RAGはこれを減らす方法の1つですが、なくせるわけではありません。重要な判断に使う場合は、人が根拠を確認する手順を残しておきます。

原因4:精度を測る仕組みがない

精度が出ない原因として見落とされがちなのが、「そもそも精度を測っていない」ことです。何となく何問か試して「良くなった気がする」で判断していると、ある質問が良くなった代わりに別の質問が悪くなっても気づけません。

マイクロソフトのRAGの設計ガイドでは、実際の利用を代表するテスト用の文書と質問を集めること、そして文書に答えがない質問もテストに含めることを勧めています。答えがない質問に対して、無理に答えを作らず「見つかりません」と返せるかも、大切な確認項目です。

  1. テスト質問を集める実際の問い合わせから50〜100問ほど選び、正しい答えと根拠の文書を記録します。答えが文書にない質問も入れます
  2. 今の精度を測る探す段階(正しい文書を拾えたか)と答える段階(答えが正しいか)を分けて記録します
  3. 原因の多い段階から直す文書の整理、区切り方、検索方法、指示の順に、1つずつ変えます
  4. 同じ質問で比べる変更のたびにテスト質問で測り直し、悪くなった質問がないかも確認します
  5. 本番の質問を足していく公開後は、うまく答えられなかった質問をテストに追加し、評価を続けます

想定ケース:施工マニュアルに答えるAIの精度改善

想定ケース:従業員60名の設備工事会社(架空の例)この例は、よくある状況をもとにした架空のモデルケースです。実在の企業の事例ではありません。
若手の現場担当者がベテランに確認していた施工手順や社内基準を、RAGで調べられるようにしました。ところが、テストしてみると、正しく答えられたのは半分程度。調べると、施工マニュアルの多くがスキャンしたPDFで、基準値が表や図の中に書かれていました。また、現場で使う略称と、マニュアルの正式名称が一致していませんでした。

改善:よく聞かれる20種類の作業に絞り、表を文章と表のデータに書き直しました。略称と正式名称の対応表を作り、検索に使えるようにしました。キーワード検索も組み合わせ、テスト質問80問で変更のたびに比べました。
効果の試算:ベテランへの確認が月120件×1件10分(双方の時間)=月20時間。このうち6割をAIで調べられるようになり、回答の確認に1件2分かかるとすると、削減は月10時間程度の試算です。
うまくいく条件:よく聞かれる作業の基準が文書として残っていること、ベテランがテスト質問の正解づくりに協力できること。
つまずきやすい点:安全に関わる基準は、AIの回答だけで判断させず、根拠のページを必ず確認する運用にする必要があります。

自社でできること/専門の会社に頼んだほうがよいこと

精度改善の役割分担の目安

作業自社でできること専門の会社に頼んだほうがよいこと
文書最新版の整理、古い版の削除、用語集・Q&Aの作成表・図・スキャンPDFの読み取り方法の設計、取り込みの自動化
評価テスト質問と正解の作成、回答の判定探す段階・答える段階を分けた評価の仕組みづくり
探し方ツールの設定画面で変えられる範囲の調整区切り方の設計、ハイブリッド検索、絞り込み、並べ替えの導入
答えさせ方指示文の調整、根拠表示の確認回答の検証の仕組み、利用するAIモデルの比較
権限・連携公開してよい文書の範囲の決定社内のログイン・権限に合わせた出し分け、文書管理システムとの連携

文書の整理とテスト質問づくりは、業務を知っている社内の人にしかできない作業です。ここが整っていれば、ツールの設定の範囲でも精度が上がることがあります。それでも足りない場合や、文書の量が多い、権限の出し分けが必要、既存の文書管理システムとつなぎたいといった場合は、専門の会社に相談するのが現実的です。費用は、文書の量と状態、求める精度、連携するシステムによって変わります。

改善にかかる費用の目安を知りたい方へ
システムの種類や機能を選ぶだけで、開発費用の目安がわかる開発費用の概算シミュレーターを無料で公開しています。社内で予算を相談する前の材料にご活用ください。
オーバーエックスのAI業務改善・AIシステム開発オーバーエックスでは、社内文書を参照するAI(RAG)の構築に加えて、すでに作ったRAGの精度の評価と改善もお手伝いしています。テスト質問による評価の仕組みづくり、文書の取り込み方法の見直し、社内のログイン・権限や既存システムとの連携、公開後の運用・保守まで対応します。詳しくはAI業務改善・AIシステム開発のページ、またはお問い合わせからどうぞ。

よくある質問

より性能の高いAIモデルに変えれば、精度は上がりますか?
答える段階の問題であれば改善することがあります。ただし、探す段階で正しい文書を見つけられていない場合は、AIモデルを変えても改善しません。まず参照した文書を確認し、どちらの段階の問題かを切り分けましょう。
RAGの精度は何%あれば使えますか?
業務によって異なります。根拠を表示して人が確認する使い方なら、ある程度の誤りがあっても役立ちます。安全や金額に関わる判断に使う場合は、より高い精度と人の確認の両方が必要です。
文書を全部入れたほうが精度は上がりますか?
必ずしも上がりません。古い版や重複した文書が増えると、かえって誤りの原因になります。問い合わせの多い分野から、整理した文書を少しずつ増やすほうが確実です。
AIに社内文書を学習させる方法とは違うのですか?
違います。RAGはAIモデルそのものを作り変えず、質問のたびに文書を探して渡す方式です。文書を差し替えればすぐに反映でき、根拠を示しやすいのが利点です。

まとめ

RAGの精度が出ないとき、原因はAIの性能より、文書の状態、探し方、答えさせ方、評価の仕組みにあることがほとんどです。まず参照した文書を表示して「探す」と「答える」のどちらで失敗しているかを切り分け、テスト質問で測りながら1つずつ直していきましょう。文書の整理は自社で、検索や評価の仕組みは専門の会社と、と分担すると進めやすくなります。

参考:Microsoft Learn「Design and develop a RAG solution」「Develop a RAG solution – Information-retrieval phase」(Azure Architecture Center)。

OX

TechBase 編集部(株式会社オーバーエックス)

東京・秋葉原のシステム開発会社。業務システム・Webシステム・基幹システムの受託開発、システムリプレイス、自社パッケージ開発、要件定義の支援を手がけています。オーバーエックスの特徴を見る

この記事に関連するサービス AI業務改善・AIシステム開発 生成AIなどのAIを、業務の流れや社内のシステムに組み込んで成果が出る形にします。業務の整理、試験導入(PoC)、AIを組み込んだシステムの開発、導入後の運用・改善まで一貫して対応… サービスの詳細を見る

Contact

今すぐ無料相談

全国対応

Page Top