AI需要予測・在庫最適化|中小企業で使える精度の考え方と、導入に必要なデータ・条件、使わなくてよいケース

「在庫が多すぎて倉庫があふれる一方で、売れ筋は欠品している」「発注は担当者の経験頼みで、休まれると誰も判断できない」。在庫を抱える卸売・小売・製造業では、こうした悩みがつきものです。「AIで需要予測をすれば在庫が最適になる」という話も聞きますが、実際にどのくらい当たるのか、自社のデータで使えるのかは、なかなか判断がつきません。
この記事では、AI需要予測と在庫最適化について、中小企業で期待できる精度の考え方、導入に必要なデータと条件、AIを使わなくてもよいケースを整理します。経済産業省が中小企業向けに公開している「AI導入ガイドブック 需要予測」の内容も参考にしています。
- AI需要予測は100%当たるものではありません。大切なのは、どの品目で、どのくらい外れるかを把握し、在庫の持ち方や人の判断と組み合わせることです。
- 導入の条件は、品目ごとの売上・出荷の実績が少なくとも1年分、できれば2〜3年分そろっていることと、予測を発注の業務に組み込めることです。
- 効果が出やすいのは、品目数が多く、ある程度の販売実績があり、担当者の勘では追いきれないケースです。品目が少ない、受注生産が中心、といった場合は、AIを使わない方法で十分なこともあります。
- 予測を出すだけでは在庫は減りません。予測をもとに発注量や安全在庫を決める仕組みまで作って、はじめて効果が出ます。
目次
AI需要予測・在庫最適化とは
AI需要予測とは、過去の売上や出荷の実績に、曜日・季節・天気・販促などの要因を組み合わせて、将来の需要量をAI(機械学習)で予測することです。在庫最適化とは、その予測をもとに、欠品と過剰在庫のバランスがとれるように、発注のタイミングや量、持っておく在庫の量を決めることです。
ここで使われるAIは、ChatGPTのような文章を作る生成AIではなく、数値のデータから傾向を学ぶ「機械学習」と呼ばれる従来型のAIです。生成AIは、予測の結果を説明する文章を作ったり、担当者の質問に答えたりする補助として使われることはありますが、予測そのものは機械学習や統計の手法で行います。
関連記事生成AIと機械学習(従来のAI)の違い|得意なこと・必要なデータと、業務ごとの使い分け・組み合わせ方
需要予測から在庫最適化までの流れ
| 段階 | 内容 | 使う仕組み |
|---|---|---|
| データの準備 | 売上・出荷・在庫・欠品の実績、カレンダー、販促、天気などを集めて整える | データ連携、データの整備 |
| 予測 | 品目・拠点ごとに、将来の需要量を予測する | 機械学習・統計 |
| 在庫の計画 | 予測と外れ幅をもとに、安全在庫・発注点・発注量を決める | 計算のルール |
| 発注 | 発注の案を担当者が確認し、修正・確定する | 在庫管理・発注の仕組み、人の判断 |
| 振り返り | 予測と実績のずれを確認し、モデルやルールを見直す | 精度の監視、再学習 |
中小企業で期待できる精度の考え方
需要予測でよくある誤解が、「AIなら当たる」というものです。経済産業省のガイドブックでも、100%の予測精度の達成は不可能だとしたうえで、精度が100%でないことを前提に、AIをどう使うかを人間が考えることが重要だとしています。
精度は「品目によって違う」
同じ会社の中でも、予測が当たりやすい品目と、当たりにくい品目があります。毎日一定の量が売れる定番品は当たりやすく、月に数回しか売れない品目や、特定の取引先からの大口注文に左右される品目は当たりにくくなります。全品目を一律にAIで予測するのではなく、当たりやすい品目からAIに任せ、当たりにくい品目は別のルールや人の判断で扱うのが現実的です。
精度の測り方
精度を測る指標には、予測と実績の差の平均(MAE:平均絶対誤差)や、差の割合の平均(MAPE:平均絶対誤差率)などがあります。経済産業省のガイドブックでは、全体の精度は売上の大きい品目を重く見るWMAPE(加重平均絶対パーセント誤差)を参考にし、個別のぶれは予測と実績の差の分布で確認する方法が紹介されています。
大切なのは、指標の数字そのものより、「今の担当者の発注と比べて、欠品や過剰在庫がどれだけ減るか」で判断することです。導入前に、今のやり方での欠品の回数や在庫の日数を記録しておくと、比べられます。
導入の条件:データ・業務・体制
AI需要予測がうまくいくかどうかは、AIの性能より、データと業務の準備で決まります。
- 品目ごとの実績が残っている:経済産業省のガイドブックでは、売上データは2〜3年分が理想で、最低1年分が目安とされています。季節の変動をとらえるには、少なくとも1年分が必要です
- 欠品の記録がある:欠品していた日は、実際の需要より売上が少なく記録されます。欠品の記録がないと、AIは「売れなかった」と学んでしまいます
- 商品マスタが整っている:同じ商品に複数のコードがある、廃番や後継品のつながりがわからない、といった状態では、正しく学習できません
- 欠けたデータが多すぎない:同ガイドブックでは、欠けている期間が全体の2割以上ある場合は、そのデータの使用を断念するよう示されています
- 予測を使う業務がある:予測をもとに発注する担当者と、その手順が決まっていることが前提です
販促やキャンペーン、取引先の大口注文の予定など、データに表れない情報をどう反映するかも決めておきます。同ガイドブックでは、販促キャンペーンを考慮せずに予測をそのまま発注に使ってしまった、入力データの形式が変わったのにモデルを調整しなかった、といった運用上の失敗例も挙げられています。
関連記事「データがないとAIは使えない」の誤解|生成AI時代に本当に必要なデータと、小さく始める準備の進め方
AIを使わなくてもよいケース
需要予測は、必ずしもAIでなくてもかまいません。次のような場合は、在庫管理システムの発注点の機能や、移動平均などのシンプルな計算で十分なこともあります。
AIを使うかどうかより、在庫の数字が正しく、発注のルールが決まっていることのほうが、在庫の適正化には効きます。まずは在庫管理の仕組みを整え、そのうえで、品目数が多く人の勘では追いきれない部分にAIを使う、という順番がおすすめです。
関連記事在庫管理システムの開発費用と機能|パッケージとの比較
予測を在庫最適化につなげる
経済産業省のガイドブックでも、予測を出すだけでは効果は得られず、予測をもとに業務の工程を変える必要があるとしています。また、定量的な効果が安定するまでには半年から1年程度かかるとされています。予測を在庫の削減につなげるには、次のような仕組みが必要です。
- 外れ幅を在庫に反映する予測が外れやすい品目ほど、安全在庫(欠品を防ぐための余裕分)を多めに持つように計算します
- 発注の案を自動で作る予測・現在の在庫・発注済みの数量・仕入のリードタイムから、発注の案を作ります
- 担当者が修正して確定する販促や大口の予定など、データにない情報を担当者が反映して確定します。修正の理由を記録しておくと、次の改善に使えます
- 定期的に振り返る予測と実績のずれ、欠品と過剰在庫の推移を見て、モデルの再学習やルールの見直しを行います
約3,000品目を扱い、購買担当者2名が毎週、在庫表を見ながら発注している会社を想定します。発注の判断に週12時間(月約52時間)かかり、売れ筋の欠品と、動きの遅い品目の過剰在庫が同時に起きています。
出荷が毎週ある約800品目にAIの予測を使って発注の案を自動で作り、担当者は案を確認して修正する形にしたとします。残る2,200品目は従来どおり発注点のルールで扱います。800品目の確認に週4時間、残りの品目の判断に週4時間かかるとすると、週8時間(月約35時間)となり、発注業務の時間は月17時間程度減る試算です。在庫や欠品への効果は品目によって大きく違うため、導入前後の在庫日数と欠品の回数を記録して確かめます。
うまくいく条件:2年以上の出荷実績と欠品の記録があること。帳簿の在庫が実際の在庫と合っていること。担当者が予測を修正した理由を記録すること。
つまずきやすい点:全品目を一度にAIで予測しようとすること。大口の特需を含んだ実績をそのまま学習させ、予測が過大になること。また、予測の根拠がわからず、担当者が使わなくなることです。
自社でできること・専門の会社に頼んだほうがよいこと
需要予測は、Excelの予測シートや、クラウドの需要予測サービスで試すこともできます。一方で、予測を在庫管理や発注の仕組みに組み込み、毎週・毎日回るようにするには、システムの開発と運用が必要です。
需要予測を組み込んだ在庫管理・発注の仕組みの費用の目安は、開発費用の概算シミュレーターで確認できます。いくつかの質問に答えるだけで、登録は不要です。
よくある質問
- AI需要予測の精度はどのくらいですか?
- 品目や業態、データの量によって大きく変わるため、一概には言えません。経済産業省のガイドブックでも、100%の予測精度の達成は不可能とされています。自社のデータで小さく試し、今の発注と比べて欠品や過剰在庫が減るかで判断するのがおすすめです。
- どのくらいの期間のデータが必要ですか?
- 経済産業省のガイドブックでは、売上データは2〜3年分が理想で、最低1年分が目安とされています。季節による変動をとらえるには、少なくとも1年分の実績が必要です。
- 新商品の需要も予測できますか?
- 新商品は過去の実績がないため、予測が難しくなります。似た商品の実績を参考にする方法もありますが、発売直後は担当者の判断を中心にし、実績がたまってからAIの予測に切り替えるのが現実的です。
- Excelの予測機能と何が違いますか?
- Excelの「予測シート」は、過去の時系列データから将来の値を予測する機能で、季節による変動も考慮できます。品目が少なく、変動の要因が少なければ十分なこともあります。曜日・天気・販促など複数の要因を組み合わせたい場合や、多くの品目を毎週自動で予測したい場合に、機械学習を使った仕組みを検討します。
- 予測を入れれば、発注担当者はいらなくなりますか?
- いらなくなるとは考えないほうが安全です。販促や大口の注文など、データに表れない情報を反映し、発注を確定するのは担当者の役割です。AIは担当者の判断を助け、確認の時間を減らす道具と考えます。
まとめ
AI需要予測は、100%当たるものではありません。品目ごとの実績が少なくとも1年分あり、在庫の数字が正しく、予測を発注の業務に組み込めることが導入の条件です。品目が少ない場合や受注生産が中心の場合は、AIを使わない方法で十分なこともあります。まずは在庫管理の仕組みとデータを整え、当たりやすい品目から小さく試しましょう。
参考:経済産業省「AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸業)」(2021年3月)、経済産業省「中小企業のDXに役立つ『手引き』と『AI導入ガイドブック』を取りまとめました」(2022年4月8日)、Microsoftサポート「Windows版Excelで予測を作成する」。
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