介護・飲食などサービス業のAI活用|記録・シフト作成・発注でできることと、介護記録の個人情報の注意点

「介護記録の入力に追われて、利用者さんと話す時間が取れない」「店長がシフト作りと発注に毎週何時間も使っている」。介護や飲食などのサービス業では、人手不足の中で、お客様に向き合う時間をどう確保するかが大きな課題です。AIで事務作業を減らせると聞いても、何から手をつければよいか、個人情報は大丈夫か、と迷う方も多いでしょう。
この記事では、介護・飲食などのサービス業で効果が出やすい、記録、シフト作成、発注の3つについて、AIでできることと注意点を整理します。特に介護記録は、利用者の心身の状態などを含む慎重に扱うべき情報なので、個人情報の扱いについても詳しく説明します。
- サービス業のAI活用は、記録の作成、シフト作成、発注のように、毎日・毎週くり返す事務作業から始めると効果が出やすくなります。
- 介護記録は、音声やメモから記録文を整え、申し送りを要約する使い方が中心です。利用者の健康状態などを含むため、個人情報の扱いを先に決めることが欠かせません。
- シフト作成は、生成AIだけでは条件をすべて満たす組み合わせを作れないことがあります。条件の計算は専用の仕組み、説明や調整の文章は生成AIと分けて考えます。
- 発注は、過去の売上や予約・天気などから必要量の目安を出し、店長が最終判断する形が現実的です。
目次
サービス業のAI活用とは
サービス業のAI活用とは、記録・シフト・発注・問い合わせ対応など、現場の裏側で発生する事務作業の一部をAIに任せ、スタッフがお客様や利用者に向き合う時間を増やすことです。
ここで使うAIには、文章を理解して作り出す生成AIと、過去のデータから数量などを予測する機械学習、条件を満たす組み合わせを計算する最適化の仕組みなどがあります。生成AIの中心にあるのは、大量の文章で学習したLLM(大規模言語モデル)という仕組みです。業務によって向いているAIが違うため、「AIを入れる」ではなく「どの作業に、どの仕組みを使うか」で考えることが大切です。
サービス業の業務とAIの使いどころ
| 業務 | 主な業種 | AIでできること | 向いている仕組み |
|---|---|---|---|
| 記録・申し送り | 介護・福祉 | 音声やメモから記録文を整える、申し送りの要約 | 生成AI、音声認識 |
| シフト作成 | 介護・飲食・小売 | 希望・資格・人数の条件を満たすシフト案の作成 | 最適化の仕組み+生成AI |
| 発注・仕込み | 飲食・小売 | 売上や予約、天気から必要量の目安を出す | 機械学習(需要予測) |
| 問い合わせ・予約 | 飲食・美容・介護 | よくある質問への回答、予約の受付 | 生成AI(チャットボット) |
介護記録:書く手間を減らし、読む時間を増やす
介護の現場では、日々のケアの内容や利用者の様子を記録し、職員の間で申し送ることが欠かせません。一方で、記録の作成に時間がかかり、ケアの時間を圧迫しているという声も多く聞かれます。
生成AIを使うと、職員がスマートフォンやタブレットに話した内容や、短いメモから、決まった様式の記録文を作れます。また、前日の記録をまとめて申し送りの要約を作れば、交代のときの確認が早くなります。AIが整えた記録は、必ず職員本人が確認してから登録します。聞き間違いや、言っていないことが書き足される誤り(生成AIのハルシネーション)が起きる可能性があるためです。
厚生労働省は、2024年度の介護報酬改定で「生産性向上推進体制加算」を新設しました。見守り機器などのテクノロジーの導入や、業務改善の委員会の開催などが要件で、介護記録ソフトなどのICTの活用も、生産性向上の取り組みとして位置づけられています。加算の要件の詳細は、厚生労働省の資料で最新の内容を確認してください。
介護記録の個人情報の扱い
介護記録には、利用者の氏名だけでなく、病歴や心身の状態など、とても慎重に扱うべき情報が含まれます。病歴などは、個人情報保護法で「要配慮個人情報」とされ、取得や第三者への提供に原則として本人の同意が必要です。介護事業者向けには、個人情報保護委員会と厚生労働省が「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」を公表しています(2026年4月一部改正)。
また、個人情報保護委員会は2023年6月2日に、生成AIサービスの利用について注意喚起を出しています。そこでは、個人情報を含む内容を入力する場合は、利用目的の範囲内かを確認すること、本人の同意なく入力した個人データが応答以外の目的(たとえばAIの学習)に使われると法律に違反する可能性があることが示されています。
個人情報の扱いは、ガイダンスなどで確認したうえで、最終的には弁護士など専門家に確認してください。
関連記事ChatGPTに社外秘を入れて大丈夫?情報漏えいのリスクと法人での対策|漏えいの経路と入力ルールを解説
シフト作成:条件の計算と、調整の手間を分ける
シフト作成は、介護でも飲食でも、店長や管理者が毎月・毎週多くの時間をかけている作業です。スタッフの希望休、資格や役割、時間帯ごとに必要な人数、連続勤務の制限、労働時間の上限など、守るべき条件が多く、Excelと経験で組み立てている現場がほとんどです。
ここで注意したいのは、生成AIは、たくさんの条件をすべて満たす組み合わせを計算するのが得意ではないことです。ChatGPTのような生成AIにシフトを作らせると、もっともらしい表は出てきますが、人数が足りない時間帯や、条件に反する勤務が紛れ込むことがあります。条件を満たす組み合わせを確実に計算するには、数理最適化と呼ばれる専用の計算の仕組みが向いています。
介護事業所では、サービスの種類ごとに定められた職員の人数や資格の基準(人員配置基準)を満たす必要があります。シフトの仕組みを作るときは、こうした基準や労働時間のルールを条件として正しく組み込むことが前提です。労務のルールは、社会保険労務士など専門家に確認してください。
関連記事Excel管理の限界とは?システム化を検討すべきサイン
発注・仕込み:必要量の目安を出す
飲食店や小売店では、食材や商品の発注が、店長の経験と勘に頼っていることがよくあります。発注が多すぎれば廃棄が増え、少なすぎれば品切れで売上を逃します。
過去の売上の実績、曜日、天気、予約の数、近くのイベントなどのデータから、明日や来週の必要量の目安を出すのが、AIの需要予測です。ただし、予測は外れることがあります。新メニューの投入、急な団体予約、天候の急変など、データに表れないことは人が補います。AIは「目安」を出し、店長がそれを見て最終判断する形が現実的です。
需要予測を使うには、少なくとも1年分程度の売上データが品目ごとに残っていることが望ましいとされます。POSレジのデータが品目別に取れているか、発注や廃棄の記録が残っているかを、まず確認します。
関連記事AI需要予測・在庫最適化|中小企業で使える精度の考え方と、導入に必要なデータ・条件、使わなくてよいケース
介護職員25名が、1日あたり平均40分を記録の作成にかけている施設を想定します。月に1人20日勤務とすると、25名×40分×20日=月約333時間です。
職員が音声で話した内容から生成AIで記録文の下書きを作り、本人が確認・修正して登録する形にしたとします。話す・確認する時間が1日20分になるとすると、25名×20分×20日=月約167時間となり、削減は月166時間程度の試算です。浮いた時間を、利用者との会話やケアの時間にあてることが目的です。
うまくいく条件:入力したデータが学習に使われない環境を用意し、使ってよいツールとルールを全職員に周知すること。記録の様式と、必ず書く項目を先に決めること。
つまずきやすい点:騒がしい場所での音声入力で認識の誤りが多いこと。AIの下書きを確認せずに登録してしまうこと。また、職員が個人のスマートフォンで無料のAIサービスを使い、利用者の情報を入力してしまうことです。
自社でできること・専門の会社に頼んだほうがよいこと
サービス業向けには、介護記録ソフト、シフト作成のサービス、POSレジと連動した発注の仕組みなど、多くの製品があります。標準の機能で足りるなら、まずそれを使うのが早く、費用も抑えられます。複数の事業所や店舗のデータをまとめたい、既存のシステムとつなぎたい、自社独自のルールがある、といった場合に、システム開発を検討します。
- 時間がかかっている作業を数える記録、シフト作成、発注などに、誰が週に何時間かけているかを記録します
- 個人情報のルールを決める使ってよいAIツール、入力してよい情報、保存の場所を決めて周知します
- 市販の製品で試す1つの事業所・店舗で、記録ソフトやシフト作成のサービスを試します
- 足りない部分をつなぐ複数の拠点のデータの集約や、既存システムとの連携が必要なら、システム化を検討します
利用者や顧客の情報を扱うシステムにAIを組み込む前に、今の仕組みの安全性を確かめておくと安心です。10の質問に答えるだけの簡易セキュリティ診断を無料で用意しています。登録は不要です。
よくある質問
- 介護記録に無料の生成AIサービスを使ってもよいですか?
- おすすめしません。利用者の健康状態などは慎重に扱うべき情報で、入力したデータがAIの学習に使われる設定のサービスでは、個人情報保護法上の問題が生じるおそれがあります。学習に使われない契約・設定の法人向けサービスを選び、使ってよいツールを施設として決めてください。
- 生成AIでシフトを作れますか?
- 簡単なシフトの案は作れますが、条件が多いと、人数が足りない時間帯や条件に反する勤務が紛れ込むことがあります。条件を確実に満たすには、専用の計算の仕組み(数理最適化)を使い、生成AIは条件の整理や説明の文章に使うのが向いています。
- 飲食店の発注をAIに任せきりにできますか?
- 任せきりはおすすめしません。予測は、新メニューや急な団体予約など、データに表れないことで外れることがあります。AIの予測を目安として、店長が最終判断する形が現実的です。
- 小さな事業所でもAIを使う意味はありますか?
- あります。記録の音声入力や問い合わせへの回答の下書きなどは、市販の製品で小さく始められます。拠点が増えたり、システムをつなぐ必要が出たりした段階で、システム化を検討すれば十分です。
- AIの導入で、介護報酬の加算は取れますか?
- 2024年度の介護報酬改定で新設された生産性向上推進体制加算は、見守り機器などのテクノロジーの導入や委員会の開催などが要件です。AIを入れれば取れるというものではないため、厚生労働省の資料や所管の自治体で要件を確認してください。
まとめ
介護・飲食などサービス業のAI活用は、記録、シフト作成、発注のように、くり返し発生する事務作業から始めると効果が出やすくなります。介護記録は個人情報の扱いを先に決め、シフトは条件の計算と生成AIの役割を分け、発注は予測を目安として人が判断する、という使い方が現実的です。まずは時間がかかっている作業を数え、1つの事業所や店舗で小さく試すところから始めましょう。
関連記事AIで議事録・日報・報告書を自動作成|ツール利用と社内システム化の違い、できることと導入前に決めるルール
参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について」(2023年6月2日)、個人情報保護委員会・厚生労働省「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(2026年4月一部改正)、厚生労働省「介護現場の生産性向上等の推進」(社会保障審議会介護給付費分科会 第263回資料、2026年8月28日)、経済産業省「AI導入ガイドブック 需要予測(小売り、卸業)」(2021年3月)。
この記事に関連するサービス
AI業務改善・AIシステム開発
生成AIなどのAIを、業務の流れや社内のシステムに組み込んで成果が出る形にします。業務の整理、試験導入(PoC)、AIを組み込んだシステムの開発、導入後の運用・改善まで一貫して対応… サービスの詳細を見る



