建設業のAI活用|日報作成・工事写真の整理・積算でできることと、写真管理基準など現場で使うときの注意点

「現場から事務所に戻ってから、日報と写真の整理で毎日1〜2時間かかる」「積算ができる人が限られていて、見積の依頼が重なると回らない」。建設業では、現場の仕事が終わったあとの事務作業が、技術者の大きな負担になっています。2024年4月からは建設業にも時間外労働の上限規制が適用され、事務作業の時間を減らすことは、どの会社にとっても避けて通れない課題です。
この記事では、建設業の中でもAIの効果が出やすい、日報・報告書の作成、工事写真の整理、積算・見積の3つについて、できることと注意点を整理します。工事写真の扱いなど、建設業ならではのルールにも触れながら、自社で進められる範囲と専門の会社に頼んだほうがよい範囲を説明します。
- 建設業のAI活用は、日報・報告書の下書き、工事写真の仕分け、積算の補助など、現場が終わったあとの事務作業から始めると効果が見えやすくなります。
- 日報は、音声やメモから生成AIで文章を整え、原価や工程の集計にもつなげると、書く手間と集計の手間を同時に減らせます。
- 工事写真は、AIで分類・整理はしても、写真そのものは加工しないのが原則です。発注者の写真管理の基準を確認したうえで仕組みを作ります。
- 積算は、AIが数量の拾い出しや過去の見積の検索を手伝えますが、最終的な数量と単価の判断は積算の担当者が行います。
建設業のAI活用とは
建設業のAI活用とは、日報・写真・図面・見積など、現場と事務所の間でやりとりされる情報の作成や整理の一部をAIに任せ、技術者が施工管理や品質・安全の確認に時間を使えるようにすることです。
ここでいうAIには、文章を理解して作り出す生成AIと、画像から写っているものを判別する画像認識などがあります。生成AIの中心にあるのは、大量の文章で学習したLLM(大規模言語モデル)という仕組みです。
国土交通省は2024年4月16日に「i-Construction 2.0」を策定し、2040年度までに建設現場の省人化を少なくとも3割、生産性を1.5倍に高める目標を掲げています。その柱には、施工のオートメーション化とあわせて、データ連携や施工管理のオートメーション化が含まれています。建機の自動化のような大がかりな取り組みは大手が中心ですが、日報や写真、書類の作業を減らす取り組みは、中小の建設会社でも始めやすい分野です。
建設業の業務とAIの使いどころ
| 業務 | AIでできること | 人が担うこと |
|---|---|---|
| 日報・報告書 | 音声やメモから文章を整える、作業員・作業時間・工種を項目に分ける | 内容の確認、安全・品質に関わる判断の記録 |
| 工事写真の整理 | 工種・部位・撮影日での仕分け、黒板の文字の読み取り、写真台帳の下書き | 撮影計画、写真の選定、提出前の確認 |
| 積算・見積 | 図面からの数量の拾い出しの補助、過去の見積・単価の検索 | 数量と単価の最終判断、見積の承認 |
| 安全書類・社内文書 | KY(危険予知)活動の記録の下書き、社内規程やマニュアルの検索 | 現場の危険の判断、指示 |
日報・報告書の作成
日報は毎日書くものなので、1日の手間は小さくても、積み上がると大きな時間になります。また、日報に書かれた作業時間や作業内容は、本来は原価管理や工程管理に使える大切なデータです。ところが、紙や自由記述の日報では集計に使いにくく、事務所で改めて入力し直している会社も少なくありません。
生成AIを使うと、現場でスマートフォンに話した内容や短いメモから、決まった様式の日報の文章を作れます。さらに、「どの工種に、誰が、何時間」といった項目を自動で抜き出せば、日報を書くことが、そのまま原価や工程の集計につながる仕組みになります。
- 様式を先に決める:工事名、日付、天候、作業員、工種、作業時間、作業内容、翌日の予定など、日報に必ず入れる項目を決めます
- 入力は短く、確認は必ず:現場では音声や短いメモで入力し、AIが整えた内容を本人が確認してから登録します
- 集計の形を決める:工種のコードや作業員の名前の書き方をそろえ、原価管理や工程管理で集計できる形にします
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工事写真の整理
工事写真は、1つの工事で数百枚から数千枚になることもあります。撮影したあとに、工種や部位ごとに仕分けし、写真台帳にまとめる作業は、多くの技術者にとって負担の大きい事務作業です。
AIの画像認識や文字の読み取りを使うと、写真に写っている黒板の文字を読み取って工種・部位ごとに仕分けしたり、撮影日や撮影場所で並べ替えたり、写真台帳の下書きを作ったりできます。電子小黒板(撮影と同時に黒板の情報を電子的に記録する仕組み)を使っていれば、写真に付いた情報をもとに、より確実に仕分けできます。
積算・見積の補助
積算は、図面や仕様書から工事に必要な材料や作業の数量を拾い出し、単価を掛けて工事費を計算する業務です。経験と知識が必要で、担当者が限られている会社も多くあります。
AIが手伝えるのは、主に次の3つです。1つ目は、図面から部材の数や長さ、面積などを拾い出す作業の補助です。2つ目は、過去の似た工事の見積や実行予算を探して、参考として示すことです。3つ目は、見積の条件や除外事項など、見積書に添える文章の下書きです。
ただし、図面の読み取りは、図面の書き方や品質によって精度が大きく変わります。拾い漏れや二重の拾い出しがあると、そのまま赤字につながります。AIの結果は「下拾い」として扱い、積算の担当者が確認して数量と単価を確定する形が現実的です。過去の見積や実行予算、実際にかかった原価がデータとして整理されているほど、AIが参考にできる情報が増えます。
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現場代理人・技術者10名が、それぞれ毎日、日報の作成に20分、工事写真の整理に20分かけている会社を想定します。月20日稼働とすると、10名×40分×20日=月約133時間です。
日報は音声とメモから生成AIで下書きを作って本人が確認し(1日5分)、写真は黒板の文字の読み取りで自動的に仕分けして本人が確認する(1日10分)形にしたとします。10名×15分×20日=月50時間となり、削減は月83時間程度の試算です。日報の作業時間が工種ごとに集計できるようになれば、事務所での再入力の手間も減ります。
うまくいく条件:日報の様式と工種のコードを先にそろえること。電子小黒板など、写真に情報が付く撮り方を現場で統一すること。
つまずきやすい点:現場ごとに日報の書き方がばらばらなまま始めること。スマートフォンの操作に慣れていない技術者への説明が足りず、結局は紙に戻ってしまうことです。
自社でできること・専門の会社に頼んだほうがよいこと
建設業向けには、日報や写真管理のアプリ、積算ソフトなど、さまざまな製品があります。標準の機能で足りるなら、それを使うのが早く、費用も抑えられます。一方で、日報・写真・原価・工程のデータがばらばらのシステムに分かれていると、AIを入れても効果が限られます。
- 事務作業の時間を数える技術者が日報・写真・書類に1日何分かけているかを、数日分記録します
- データの流れを描く日報・写真・見積・原価が、どこで作られ、どこで入力し直されているかを図にします
- 1つの現場で試す協力的な現場を1つ選び、日報の音声入力や写真の自動仕分けを試します
- 集計までつなぐ試して効果があれば、原価管理や工程管理とのデータ連携を検討します
日報や写真、見積のデータの流れを整理するときは、業務フロー図や要件定義書のひな形が役立ちます。無料テンプレート集からダウンロードできます。
よくある質問
- 現場の技術者がスマートフォンに慣れていなくても使えますか?
- 音声入力を使えば、文字を打つ手間はかなり減らせます。ただし、最初は操作の説明や、入力した内容の確認の仕方を丁寧に伝える必要があります。協力的な現場から始め、使い方の手本を作ってから広げるのがおすすめです。
- AIで工事写真を明るく補正してもよいですか?
- 提出用の写真は加工しないのが原則です。国土交通省の写真管理基準(案)では、写真の信憑性を考慮して写真編集を認めていません。AIは写真の仕分けや台帳づくりに使い、写真の原本はそのまま保ってください。発注者ごとの基準もあわせて確認します。
- 積算をAIに任せれば、積算の担当者がいなくても見積が出せますか?
- 現時点では難しいと考えたほうが安全です。図面の読み取りには誤りが残るため、AIの結果は下拾いとして扱い、積算の担当者が数量と単価を確認します。AIは担当者の作業を早くする道具と考えます。
- 日報をAIで作ると、労務管理の記録として使えますか?
- 日報の作業時間を勤怠の参考にすることはできますが、労働時間の管理は勤怠の記録として別に正しく行う必要があります。日報と勤怠の扱いは、社会保険労務士など専門家に確認してください。
- 何から始めればよいですか?
- まず、技術者が日報・写真・書類に1日何分かけているかを数えることから始めます。時間がかかっている作業と、入力し直しが起きている場所がわかれば、AIで効果が出る部分が見えてきます。
まとめ
建設業のAI活用は、日報・報告書の下書き、工事写真の仕分け、積算の補助など、現場が終わったあとの事務作業から始めると効果が見えやすくなります。日報は原価や工程の集計につなげ、写真は加工せずに仕分けと台帳づくりにAIを使い、積算はAIの結果を下拾いとして担当者が確定する、という使い方が現実的です。まずは事務作業の時間を数え、1つの現場で小さく試すところから始めましょう。
参考:国土交通省「『i-Construction 2.0』を策定しました」(2024年4月16日)、厚生労働省「はたらきかたススメ 建設業」、国土交通省「写真管理基準(案)」(平成29年3月)、国土交通省「デジタル工事写真の小黒板情報電子化についての一部改定について」(2021年3月26日)。
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