顧客管理システムは自社開発すべき?SaaSとの比較

「有名なCRMを導入したものの、項目が多すぎて現場が使いこなせない」「自社の営業スタイルに合わず、結局Excelの顧客台帳に戻ってしまった」――顧客管理システムの導入では、こうした声が少なくありません。そこで浮かぶのが「いっそ自社専用の顧客管理システムを開発したほうがいいのでは」という疑問です。
この記事では、顧客管理システムを自社開発する場合とSaaS(月額制のクラウドサービス)を利用する場合の違い、自社開発が向いているケース、費用の目安、判断の手順を解説します。どちらが正解かではなく、自社にとって合理的な選択をするための材料としてお読みください。
- 顧客管理が営業活動の記録中心なら、まずはSaaS型CRMを検討するのが基本です。
- 自社開発が向くのは基幹システムとの密な連携や、業界特有の管理項目・業務フローがある場合です。
- 自社開発の費用は目安として300万〜1,000万円、SaaSは利用人数に比例して月額費用がかかります。
- 判断は初期費用ではなく、5年程度の総額と現場の定着度で比較することが重要です。
目次
顧客管理システム(CRM)とは
顧客管理システムとは、顧客の基本情報、商談や問い合わせの履歴、購入履歴などを一元管理し、営業や顧客対応に活用するためのシステムです。英語のCustomer Relationship Management(顧客関係管理)の頭文字を取ってCRMとも呼ばれます。
顧客情報が担当者ごとのExcelや名刺、メールに分散していると、担当交代時の引き継ぎ漏れや、同じ顧客に複数の部署が別々に連絡してしまうといった問題が起きます。顧客管理システムは、こうした情報を会社の資産として共有し、適切なタイミングで適切な対応をするための基盤になります。
顧客管理システムの主な機能
| 機能 | 内容 |
|---|---|
| 顧客情報管理 | 会社・担当者の基本情報、取引状況、属性の管理 |
| 対応履歴管理 | 商談・電話・メール・問い合わせの記録と共有 |
| 案件・商談管理 | 商談の進捗、受注確度、見込み金額の管理(SFA機能) |
| タスク・リマインド | 次回連絡日や契約更新日の通知 |
| 分析・レポート | 顧客別売上、商談の成約率、担当者別の活動量の集計 |
| 他システム連携 | 販売管理・会計・メール配信・問い合わせフォームとの連携 |
なお、商談の進捗管理に特化したものはSFA(営業支援システム)と呼ばれ、CRMと一体になった製品も多くあります。
自社開発とSaaSの違い
顧客管理システムには多くのSaaS製品があり、1ユーザーあたり月額数千円程度から利用できるものも一般的です。一方、自社開発は初期費用がかかるものの、自社の業務に合わせて自由に設計できます。両者の違いを整理すると次のとおりです。
SaaS型CRM
- 契約後すぐに使い始められる
- 初期費用が小さく、月額費用で利用
- 機能改善やセキュリティ対策は提供元が実施
- 画面・項目・業務の流れは製品の範囲内で調整
- 利用人数が増えるほど月額費用が増える
自社開発
- 稼働まで数か月の開発期間が必要
- 初期費用が大きい
- 保守・改修を自社(委託先)で手配する
- 必要な項目・画面だけに絞った設計が可能
- 利用人数による費用増加がない
一般的には、まずSaaSを検討し、それで解決できない理由がはっきりしている場合に自社開発を検討する、という順番が合理的です。SaaSか開発かの一般的な判断基準はSaaSか自社システム開発かでも解説しています。
顧客管理システムの自社開発が向いているケース
次のような条件に当てはまる場合は、自社開発を比較検討する価値があります。
- 基幹システムと密に連携したい:販売管理や独自の業務システムの取引データと顧客情報を、リアルタイムで一体的に扱いたい
- 業界特有の管理項目がある:不動産の物件と顧客の紐付け、保守契約と設備の履歴など、一般的なCRMでは表現しにくい情報を扱う
- SaaSが定着しなかった:項目や画面が多すぎて入力されず、必要最小限のシンプルな画面が求められている
- 利用人数が多い:数十〜数百人が使うため、月額費用の累計が大きくなる
- データを社内で管理したい:取引先との契約や社内規程により、保存場所やアクセス方法に独自の条件がある
反対に、営業担当が数名で、顧客情報と商談履歴を共有できればよいという段階であれば、SaaSで十分なことがほとんどです。「自社開発のほうが安そう」という理由だけで開発を選ぶと、保守や改修の負担を見落としがちなので注意しましょう。
自社開発の費用と期間の目安
顧客管理システムを自社開発する場合の費用は、機能範囲と連携の有無で変わります。以下は一般的な目安です。
期間は、シンプルな構成で3〜5か月、連携を含む場合は6か月〜1年程度が目安です。稼働後は保守費として年間で開発費の10〜15%程度がかかります。
5年間の総額で比較する
SaaSとの比較では、初期費用ではなく、5年程度の総額(TCO:総保有コスト)で考えるのがポイントです。
総額比較の考え方(例)
| 項目 | SaaS型CRM | 自社開発 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 初期設定・導入支援費(0〜数十万円) | 開発費(300万〜1,000万円程度) |
| 毎年の費用 | ユーザー単価×人数×12か月 | 保守費(開発費の10〜15%程度) |
| 追加の費用 | 上位プラン・オプション・連携ツール | 機能追加の改修費 |
| 人数が増えたとき | 比例して増える | 基本的に増えない(サーバー増強は別) |
たとえば利用者が少ない場合はSaaSが有利になりやすく、利用者が多く、かつ連携開発やカスタマイズが必要な場合は自社開発が有利になることがあります。どちらにしても、現場が使い続けられるかどうかが投資効果を左右します。
SaaSと開発を組み合わせる選択肢
「全部SaaS」か「全部自社開発」かの二択ではありません。顧客管理はSaaSを使い、販売管理など社内システムとの連携部分だけを開発する方法も現実的です。多くのSaaSはAPI(システム同士がデータをやり取りするための窓口)を提供しているため、既存システムとのデータ連携を開発することで、二重入力をなくせます。
また、顧客情報と受注・請求情報を一体で管理したい場合は、販売管理システムの一部として顧客管理機能を持たせる設計もあります。詳しくは販売管理システムの開発の記事をご覧ください。自社開発の場合の全体的な進め方は業務システム開発の進め方で紹介しています。
関連記事業務システム開発の進め方|費用・期間・失敗しないポイント
よくある質問
- 顧客管理システムを自社開発するといくらかかりますか?
- 顧客情報と対応履歴の管理に絞ったシンプルな構成で300万〜500万円程度、案件管理や基幹システムとの連携を含むと800万〜1,500万円程度が目安です。別途、年間で開発費の10〜15%程度の保守費がかかります。
- SaaSから自社開発に切り替えるとき、データは移行できますか?
- 多くのSaaSはCSV出力やAPIでデータを取り出せるため、移行は可能です。ただし添付ファイルや履歴の形式によっては変換が必要になるため、事前に出力できる範囲を確認しておきましょう。
- Excelの顧客台帳から始めてもよいですか?
- 少人数であればExcelでも運用できます。ただし、同時編集や履歴管理、アクセス権限の管理が難しくなってきたら、SaaSや専用システムへの移行を検討するタイミングです。
まとめ
顧客管理システムは、多くの場合まずSaaSを検討し、それで解決できない明確な理由がある場合に自社開発を比較するのが基本です。自社開発が向いているのは、基幹システムとの密な連携、業界特有の管理項目、利用人数の多さなどの条件がそろう場合です。
判断の際は、初期費用だけでなく5年程度の総額と、現場が使い続けられるかどうかを重視しましょう。SaaSと連携開発を組み合わせる方法も含めて検討すると、自社に合った選択肢が見えてきます。
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