ChatGPTに社外秘を入れて大丈夫?情報漏えいのリスクと法人での対策|漏えいの経路と入力ルールを解説

「社員がChatGPTに取引先の資料を貼り付けていたらしい」「入力した内容がAIに学習されて、他社の回答に出てくるのでは」。生成AIの業務利用が広がるにつれて、情報漏えいへの不安を感じる経営者や情シス担当者が増えています。一方で、不安から一律に禁止した結果、社員が個人のスマートフォンでこっそり使う、という状況も起きています。
この記事では、ChatGPTなどの生成AIに社外秘の情報を入力したときに何が起きうるのかを、公的機関の注意喚起と提供会社の公式情報をもとに整理します。そのうえで、法人として取るべき対策を「契約・設定」「ルール」「仕組み」の3つに分けて解説します。製品の仕様は2026年10月時点の公式情報に基づきます。
- 情報漏えいの経路は「AIに学習される」だけではありません。サービス側の不具合、アカウントの乗っ取り、共有機能の設定ミス、社員の個人アカウントでの利用も経路になります。
- OpenAIは、ChatGPTの法人向けプランやAPIの入力データを、初期設定ではモデルの学習に使わないとしています。一方、個人向けプランは初期設定で学習に使われるため、業務では法人向けの契約を選ぶのが基本です。
- 個人情報保護委員会は2023年6月、生成AIに個人情報を入力する際の注意点を公表しています。個人データの入力は、利用目的の範囲内か、学習に使われないかを確認する必要があります。
- 禁止だけでは隠れた利用(シャドーAI)が増えます。安全に使える環境を用意したうえでルールを決めることが、漏えい対策として効果的です。
目次
ChatGPTの情報漏えいリスクとは
ChatGPTの情報漏えいリスクとは、生成AIのサービスに入力した社外秘の情報や個人情報が、意図しない相手に見られたり、自社の管理できない形で使われたりするおそれのことです。
生成AIとは、文章や画像などを新しく作り出すAIのことで、ChatGPTはその代表的なサービスです。ChatGPTに入力した文章は、OpenAIのサーバーに送られて処理されます。つまり、入力した時点で、情報は社外のサービスに渡っています。これ自体は、クラウドのメールやファイル共有サービスと同じです。問題は、渡した情報がどう保存され、何に使われ、誰が見られるかを、会社として把握・管理できているかどうかです。
IPA(情報処理推進機構)が2026年1月に公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」の組織編では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初めて選ばれ、3位に入りました。AIの利用に伴うリスクは、企業が向き合うべき主要な脅威の1つになっています。
情報が漏れる5つの経路
「ChatGPTに入れると学習されて漏れる」というイメージが強いですが、実際の経路はそれだけではありません。
生成AIを使うときの主な漏えい経路
| 経路 | 内容 | 主な対策 |
|---|---|---|
| モデルの学習への利用 | 入力した内容がAIの改善に使われ、将来の回答に影響する可能性 | 学習に使わない法人向けプランやAPIを使う。個人向けは設定で学習をオフにする |
| サービス側の不具合・事故 | 提供会社のシステムの不具合で、他の利用者に情報が見えてしまう | 提供会社のセキュリティ認証や事故時の対応を確認する。極秘情報は入力しない |
| アカウントの乗っ取り | パスワードの使い回しなどでアカウントに不正ログインされ、過去の会話を見られる | 多要素認証、会社のID管理(シングルサインオン)との連携 |
| 共有機能・連携機能の設定ミス | 会話の共有リンクや外部サービスとの連携で、意図せず公開・送信してしまう | 使ってよい機能を決める。管理者が機能を制限できるプランを選ぶ |
| 社員の個人アカウントでの利用 | 会社が把握していないサービスや個人契約で業務データを扱う(シャドーAI) | 会社が認めたAI環境を用意し、利用ルールを周知する |
実際に報じられた例
海外では、生成AIの利用に関連した情報の流出が報じられています。
- 社員が社内のコードを入力(韓国・サムスン電子、2023年):米CNBCなどの報道によると、社員がChatGPTに機密性の高いコードをアップロードしたことが判明し、同社は2023年5月、社内のパソコンでの生成AIの利用を一時的に制限したとされています。
- サービス側の不具合で他人の情報が表示(OpenAI、2023年3月):OpenAIの公式発表によると、2023年3月20日、利用していたオープンソースのライブラリの不具合により、一部の利用者に他の利用者の会話履歴のタイトルが見える状態になりました。また、特定の9時間に利用していたChatGPT Plus加入者の約1.2%について、氏名やメールアドレス、カード番号の下4桁などの支払い関連情報が他の利用者に見えた可能性があったと公表しています。
前者は「使う側」の問題、後者は「提供する側」の問題です。どちらも、入力した情報は社外に出ているという前提で、何を入れてよいかを決めておく必要があることを示しています。
個人情報保護委員会の注意喚起(2023年6月)
個人情報保護委員会は2023年6月2日、「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」を公表しました。個人情報取扱事業者(個人情報を事業に使っている会社のこと。ほぼすべての企業が該当します)に向けて、次の2点を挙げています。
- 利用目的の範囲内か確認する:個人情報を含むプロンプト(AIへの指示文)を入力する場合は、特定された利用目的を達成するために必要な範囲内であることを十分に確認すること
- 学習などに使われないか確認する:本人の同意なく個人データを含むプロンプトを入力し、その個人データが応答の出力以外の目的で取り扱われる場合、個人情報保護法に違反する可能性がある。そのため、提供事業者が個人データを機械学習に利用しないこと等を十分に確認すること
つまり、顧客や社員の個人情報をAIで扱う場合は、使うサービスが入力データを学習に使わないかどうかが、法律上も重要な確認ポイントになります。
ChatGPTの法人向けプランと個人向けプランの違い
OpenAIの公式情報(2026年10月時点)では、入力データの扱いがプランによって異なります。
入力データの扱いの違い(OpenAI公式情報より)
| 項目 | 個人向け(Free・Plus・Proなど) | 法人向け(Business・Enterprise・Edu)とAPI |
|---|---|---|
| モデルの学習への利用 | 初期設定では利用される。設定の「Improve the model for everyone」をオフにすると、以降の会話は学習に使われない | 初期設定では利用しない(APIで改善への協力を希望する場合は、明示的に申し込む) |
| データの所有 | 利用規約による | 組織が所有すると説明されている |
| 管理機能 | 個人ごとの設定 | 管理者による利用者の管理、保存期間の設定(対象となる組織)など。機能はプランによって異なる |
| セキュリティ認証 | ― | SOC 2 Type 2、ISO/IEC 27001などの取得を公表 |
個人向けプランでも、一時チャット(Temporary Chat)は学習に使われませんが、安全上の理由で最長30日間保存される場合があるとされています。「学習に使われない」と「どこにも保存されない」は別のことである点に注意してください。
なお、Microsoft、Google、Anthropicなど他社の生成AIサービスでも、個人向けと法人向けでデータの扱いが異なることがあります。どのサービスを使う場合も、契約するプランの利用規約とデータの扱いを公式情報で確認することが出発点です。
関連記事ChatGPT APIで社内業務システムを作る方法と費用
法人で取るべき対策
対策は、「契約・設定」「ルール」「仕組み」の3つの層で考えると整理しやすくなります。
入力してよい情報の線引きの例
- 入力してよい:公開済みの情報、一般的な文章の作成・言い換え、個人や取引先を特定できないように加工した情報
- 条件付きで入力してよい:社内の業務情報(法人向けプランなど、会社が認めた環境に限る)
- 原則入力しない:顧客や社員の個人情報、取引先から秘密保持契約で預かった情報、未公表の決算・M&A・新製品の情報、パスワードやAPIキーなどの認証情報
線引きは業種や扱う情報によって変わります。ルールの作り方と項目の例は、次の記事で詳しく解説しています。
関連記事生成AIの社内ガイドラインの作り方|シャドーAIを防ぐルールの項目例・ひな形・作成手順を中小企業向けに解説
想定ケースで考える:営業部門のAI利用
状況:営業担当者の一部が、個人で契約したChatGPTに見積書や取引先とのメールを貼り付け、提案書の下書きを作っていました。情シス担当は1名で、誰がどのAIサービスを使っているかを把握できていませんでした。
やったこと:まず全社員にアンケートを取り、使っているサービスと用途を把握しました。そのうえで、入力データを学習に使わない法人向けプランを営業部門に導入し、多要素認証と共有リンクの制限を設定しました。取引先の個人名や単価は入力しない、出力は必ず上長が確認する、といったルールを決め、30分の説明会を開きました。
試算:営業担当15名が、提案書やメールの下書きに1人あたり週3時間かけていたとします。AIの活用で1人週1時間短縮できると仮定すると、15名×週1時間×4週=月60時間程度の削減の試算です。ここから、ルールの周知や利用状況の確認にかかる情シスの手間(月数時間)を差し引いて考えます。
うまくいく条件:「使ってよい環境」を先に用意してから個人利用を止めること。入力してはいけない情報を、具体例付きで示すこと。
つまずきやすい点:ルールを作っても、見積書をそのまま貼り付ける習慣は簡単には変わりません。単価や取引先名を自動で伏せ字にする機能を持つ社内システムを作るなど、仕組みで守る方法も検討が必要になります。
社内でAIを使う環境を「仕組み」で守る
ルールと設定だけでは、入力する人の注意力に頼る部分が残ります。扱う情報の機密性が高い会社や、顧客の個人情報を日常的に扱う会社では、AIを社内システムに組み込み、システム側で守る方法も選択肢です。
- APIを使った社内専用の画面:APIとは、システム同士をつなぐための窓口です。社内の業務システムからAPI経由で生成AIを使えば、入力できる項目を限定したり、利用記録を残したりできます
- 個人情報の自動マスキング:AIに送る前に、氏名や電話番号などを自動で伏せ字にする処理を入れます
- 社内文書の権限管理:社内文書を検索して答えるAI(RAG)では、閲覧権限のない人に、権限外の文書の内容が回答されないように設計します
- 社内で動かすAI:外部に一切データを出せない場合は、社内のサーバーで動かすAI(ローカルLLM)も選択肢になります。ただし、導入・運用の負担は大きくなります
関連記事ローカルLLM(社内で動かす生成AI)の導入|向いている会社と注意点・クラウドとの違いを中小企業向けに解説
自社でできるのは、法人向けプランの契約と設定、利用ルールの作成と周知までです。社内システムとの連携、マスキングや権限管理の仕組みづくりは、システム開発の知識が必要になるため、専門の会社に相談したほうが確実です。
AIの利用ルールを考える前に、まず自社のセキュリティの基本ができているかを確認しませんか。10の質問とサイトのURLから、対策の状況を確認できる簡易セキュリティ診断を用意しています。登録は不要です。
よくある質問
- ChatGPTに入力した内容は、他の会社の回答にそのまま出てきますか?
- 入力した文章がそのまま他人の回答に出てくる可能性は低いと考えられますが、ゼロとは言い切れません。個人向けプランでは初期設定で学習に使われるため、業務では学習に使われない法人向けプランやAPIを選ぶか、設定で学習をオフにしてください。
- 学習をオフにすれば、何を入力しても安全ですか?
- 安全とは言えません。学習に使われなくても、データは一定期間サービス側に保存されることがあり、不具合やアカウントの乗っ取りによる漏えいの経路は残ります。個人情報や秘密保持契約で預かった情報は、会社のルールで入力の可否を決めてください。
- 顧客の個人情報をAIで扱うのは違法ですか?
- 直ちに違法というわけではありません。個人情報保護委員会は、利用目的の範囲内であること、提供事業者が個人データを学習などに使わないことを十分に確認するよう求めています。扱う情報や契約によって判断が変わるため、最終的には弁護士など専門家に確認してください。
- 社員の生成AIの利用を全面的に禁止すべきですか?
- 全面禁止は、個人のスマートフォンなどで隠れて使う「シャドーAI」を増やすおそれがあります。会社が認めた安全な環境を用意し、入力してよい情報のルールを決めたうえで使ってもらうほうが、管理しやすくなります。
- 無料版のChatGPTを業務で使ってもよいですか?
- 公開済みの情報だけを扱う用途なら使える場合もありますが、管理者による利用者の管理ができず、初期設定では入力が学習に使われます。業務で継続的に使うなら、法人向けプランなど会社として管理できる環境をおすすめします。
まとめ
ChatGPTの情報漏えいリスクは、「学習に使われる」ことだけではなく、サービス側の不具合、アカウントの乗っ取り、共有機能の設定ミス、社員の個人利用など、複数の経路があります。法人向けプランなど学習に使われない環境を選び、個人情報保護委員会の注意喚起も踏まえて入力してよい情報のルールを決め、必要に応じて社内システムに組み込んで仕組みで守る、という順で対策を進めましょう。禁止するより、安全に使える環境を用意することが、漏えいを防ぐ近道です。
参考:個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023年6月2日)、OpenAI「Business data privacy, security, and compliance」(2026年10月確認)、OpenAI「Data Controls in ChatGPT」(2026年10月確認)、OpenAI「March 20 ChatGPT outage: Here’s what happened」(2023年3月24日)、CNBCによるサムスン電子の生成AI利用制限の報道(2023年5月2日)、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」(2026年1月29日)。
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