ソフトウェアの資産計上の基準|いくらから・どこまで含めるか(自社利用・システム開発費)

「システム開発を発注したが、この費用はソフトウェアとして資産計上すべきか、それとも経費で落とせるのか」「要件定義やデータ移行の費用まで含めるのか」。ソフトウェアの資産計上は、システム開発の発注担当者や経営者が経理・税理士とやり取りするなかで、必ずといってよいほど出てくる論点です。判断を誤ると、決算や税務調査で処理の修正を求められることもあります。
この記事では、自社利用のソフトウェアを中心に、資産計上の基準(いくらから・どんな条件で)、資産計上に含める範囲(どこまで含めるか)、計上のタイミングを、国税庁や企業会計基準委員会の公表資料に沿って発注者の目線で整理します。勘定科目や耐用年数、償却方法の詳細は別記事で解説しているため、ここでは「資産計上するかどうか・何を含めるか・いつ計上するか」に絞って解説します。
- 自社利用のシステム開発費は、将来の収益獲得や費用削減につながる限り、原則として無形固定資産(ソフトウェア)として資産計上する。
- 金額の目安は10万円未満なら全額経費、20万円未満なら一括償却資産、中小企業者等は特例で一定額未満を即時償却できる(2026年10月時点の制度)。
- 資産計上の範囲は設計・開発・テスト・導入時の設定やカスタマイズが中心で、データ移行や操作研修の費用は会計上は発生時の費用とされている。
- 計上のタイミングは、制作中は仮勘定、稼働(事業の用に供した日)から償却開始。稟議書や検収書などの証憑を残すことが重要。
目次
ソフトウェアの資産計上とは?
ソフトウェアの資産計上とは、システム開発費やソフトウェアの購入費を、支払った年度の費用にせず、貸借対照表の「無形固定資産(ソフトウェア)」として計上し、耐用年数にわたって少しずつ費用化(減価償却)する会計処理のことです。
システムは一度作ると何年も使い続けるため、その効果は複数年にわたります。そこで、支出した年度に全額を費用にするのではなく、使う期間に応じて費用を配分するという考え方がとられています。資産計上するか費用処理するかによって、その年度の利益や税額が大きく変わるため、発注者側でも基本的な基準を理解しておくことが大切です。
ソフトウェアの3つの区分
会計上、ソフトウェアは制作の目的によって3つに分けられ、それぞれ処理が異なります。システム開発を外部に発注する一般的な企業の場合、多くは「自社利用のソフトウェア」に当たります。
| 区分 | 内容 | 代表例 |
|---|---|---|
| 自社利用のソフトウェア | 社内の業務で使う、または自社のサービス提供に使うソフトウェア | 販売管理・生産管理などの業務システム、自社で運営する会員サイトのシステム |
| 市場販売目的のソフトウェア | 製品として複製し、不特定多数に販売するソフトウェア | パッケージソフト製品 |
| 受注制作のソフトウェア | 顧客から個別に受注して制作するソフトウェア | 開発会社が受託して作るシステム(開発会社側の区分) |
同じシステムでも、発注した企業にとっては「自社利用」、受託した開発会社にとっては「受注制作」となります。この記事では、発注者側の自社利用ソフトウェアを前提に説明します。
ソフトウェアの資産計上の基準
資産計上するかどうかは、「将来の効果があるか」という性質の基準と、「いくらか」という金額の基準の2段階で考えると整理しやすくなります。
性質の基準:将来の収益獲得・費用削減が確実か
企業会計基準委員会の実務指針では、自社利用のソフトウェアは、その利用により将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる場合に資産計上するとされています。業務の効率化を目的とした業務システムや、自社のサービス提供に使うシステムは、通常この要件を満たすと考えられます。
税務上も、自社利用のソフトウェアの製作費は原則として取得価額に含めます。ただし、研究開発費に当たる費用のうち、そのソフトウェアの利用によって将来の収益獲得や費用削減にならないことが明らかな場合などは、取得価額に算入しないことができるとされています。
金額の基準:いくらから資産計上するか
性質上は資産に当たる場合でも、取得価額が少額であれば、税務上は一度に費用(損金)にできる制度があります。2026年10月時点の主な制度は次のとおりです。
取得価額ごとの主な処理の目安(法人税)
| 取得価額 | 主な処理 | ポイント |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 少額の減価償却資産として全額を損金算入できる | 事業の用に供した年度に損金経理することが条件 |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年間で均等に償却できる | 耐用年数に関係なく3年で費用化 |
| 中小企業者等の特例の上限額未満 | 少額減価償却資産の特例で全額を損金算入できる | 年間合計300万円までなど要件あり。令和8年度税制改正で上限額を30万円未満から40万円未満に引き上げ、適用期限を延長する内容が示されている |
| 上記以上 | 無形固定資産として資産計上し、耐用年数にわたり償却 | 自社利用は原則5年 |
業務システムの受託開発は数百万円以上になることが多いため、多くの場合は資産計上の対象になります。一方、既存システムへの小さな機能追加や、少額のソフトウェアライセンスの購入では、少額の制度を使えるケースがあります。耐用年数や償却方法、勘定科目の詳細は、次の記事を参照してください。
関連記事システム開発費・改修費の勘定科目と耐用年数|ソフトウェアの会計処理
資産計上の範囲:どこまで含めるか
システム開発に関わる費用は、設計・開発費だけではありません。要件定義、データ移行、操作研修、保守など、さまざまな費用が発生します。どこまでをソフトウェアの取得価額に含めるかは、発注者が見積書や請求書を経理に渡す際に特に迷いやすいポイントです。
| 費用の種類 | 扱いの考え方(一般的な整理) |
|---|---|
| 設計・プログラミング・テスト | ソフトウェアの制作に直接要する費用として、取得価額に含める |
| 要件定義 | 開発を進めることが決まり、制作の一部として行われる場合は取得価額に含める扱いが一般的。導入するかどうかを検討する段階の調査・構想は費用処理とされることが多い |
| 購入ソフトの設定作業・カスタマイズ | 自社の仕様に合わせるための設定作業や付随的な修正は、購入ソフトの取得価額に含める |
| データ移行(データのコンバート) | 会計上は発生した事業年度の費用とされている |
| 操作研修(トレーニング) | 会計上は発生した事業年度の費用とされている |
| 稼働後の保守・運用費 | 現状を維持するための費用として、原則は発生時の費用 |
| 製作原価に比べて少額な間接費など | 税務上、製作原価のおおむね3%以内の少額な付随費用などは取得価額に算入しないことができる |
| 計画変更などで明らかに不要になった製作費 | 税務上、取得価額に算入しないことができる |
ここで重要なのは、見積書や請求書の段階で費目が分かれているかどうかです。「システム開発一式」としか書かれていないと、データ移行や研修の費用を切り分けられず、本来は費用にできる部分まで資産計上することになりかねません。発注時に、工程別・費目別の内訳を出してもらうよう依頼しておきましょう。
関連記事システム開発費用の内訳とは?人月単価・工程別の配分をわかりやすく解説
資産計上のタイミング:いつ計上し、いつから償却するか
システム開発は数か月から1年以上かかることも多く、決算期をまたぐケースも珍しくありません。資産計上のタイミングは、次の流れで整理できます。
- 資産計上の開始会計上は、将来の収益獲得または費用削減が確実と認められる状況になった時点。たとえば制作予算が承認された社内稟議書などの証憑で判断します。
- 制作中(開発期間)支払った着手金や中間金、途中までの制作費は「ソフトウェア仮勘定」などで資産として計上し、まだ償却はしません。
- 制作の完了会計上は、実質的に制作作業が完了したと認められる時点(作業完了報告書・最終テスト報告書などで確認)で資産計上の対象範囲が締まります。
- 稼働(事業の用に供した日)仮勘定からソフトウェア勘定に振り替え、実際に業務で使い始めた日から減価償却を開始します。
検収と稼働のずれに注意
システム開発では、開発会社からの納品・検収(発注者が成果物を確認して受け入れること)の日と、実際に業務で使い始める日がずれることがよくあります。税務上、減価償却は「事業の用に供した日」から始まるため、検収しただけで稼働していない期間は償却できません。決算期末の直前に検収した場合などは、稼働日がいつかを記録に残しておきましょう。
フェーズ分けや途中中止の場合
開発を複数のフェーズに分けて段階的に稼働させる場合は、フェーズごとに稼働した部分から償却を始めるのが一般的な考え方です。また、開発が途中で中止になった場合は、それまでに仮勘定に計上していた金額の扱い(除却など)を検討する必要があります。いずれも個別の判断になるため、早めに経理担当や顧問税理士と相談しましょう。
稼働後の改修は改めて判定する
稼働後にプログラムを修正した場合は、その都度、資産計上するかどうかを判定し直します。税務上は、機能上の障害の除去や現状の効用の維持に当たる修正は修繕費、新たな機能の追加や機能の向上に当たる修正は資本的支出(資産計上)とされています。保守契約の範囲内の作業と、機能追加の見積もりを分けておくと判定しやすくなります。
発注者が準備しておきたいこと
資産計上の判断は経理や税理士が行いますが、その根拠となる資料をそろえるのは発注者側の役割です。システム開発の発注時から、次の点を意識しておきましょう。
- 見積書・請求書の内訳を費目別にする:設計・開発・テスト、データ移行、研修、保守などを分けて記載してもらう。
- 稟議書に目的と効果を書く:業務時間の削減や売上への貢献など、将来の効果を説明できるようにしておく。
- 検収書・完了報告書を保存する:制作完了の時点を示す証憑として残す。
- 稼働日を記録する:本番稼働の日付を社内で共有し、償却開始日の根拠にする。
- 改修は保守と機能追加を分けて依頼する:修繕費か資本的支出かの判断材料になる。
関連記事システム開発の見積もり手法|工数積み上げ・ファンクションポイント法・類推見積もりの違い
関連記事システム開発の見積もりは妥当?チェックすべき7つのポイント
よくある質問
- ソフトウェアはいくらから資産計上が必要ですか?
- 税務上、取得価額が10万円未満なら全額を損金に、20万円未満なら一括償却資産として3年で償却できます。中小企業者等は少額減価償却資産の特例で一定額未満を即時償却できる場合があり、それ以上は無形固定資産として資産計上するのが原則です(2026年10月時点)。
- 要件定義の費用は資産計上しますか?
- 開発を進めることが決まったあとに、制作の一部として行う要件定義は、ソフトウェアの取得価額に含める扱いが一般的です。導入するかどうかを検討している段階の調査や構想の費用は、費用処理とされることが多くあります。判断が分かれることがあるため、顧問税理士に確認してください。
- データ移行の費用は資産計上の対象ですか?
- 企業会計基準委員会の実務指針では、データのコンバートのための費用は発生した事業年度の費用とされています。見積書でデータ移行の費用を分けておくと、処理を判断しやすくなります。
- SaaSの初期費用は資産計上しますか?
- SaaSは自社でソフトウェアを取得するのではなくサービスを利用する契約のため、一般的には利用料や初期設定費用は費用として処理されることが多いです。ただし契約内容によって扱いが変わることもあるため、金額が大きい場合は顧問税理士に確認しましょう。
まとめ
自社利用のシステム開発費は、将来の収益獲得や費用削減につながる限り、原則としてソフトウェアとして資産計上します。少額であれば10万円未満・20万円未満・中小企業者等の特例といった制度を使える場合がありますが、業務システムの開発費は多くが資産計上の対象です。取得価額には設計・開発・テストや導入時の設定・カスタマイズを含め、データ移行や研修の費用は会計上は発生時の費用とされています。制作中は仮勘定、稼働日から償却開始という流れを押さえ、見積書の内訳や稟議書、検収書などの証憑をそろえておきましょう。実際の処理は、必ず顧問税理士に確認してください。
参考:国税庁「No.5461 ソフトウエアの取得価額と耐用年数」/国税庁「No.5403 少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」/国税庁「法人税基本通達 第7章第3節第1款 固定資産の取得価額」/国税庁「法人税基本通達 第7章第8節 資本的支出と修繕費」/財務省「令和8年度税制改正の大綱」/企業会計基準委員会「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」
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