基幹システムのクラウド化|メリットと移行手順

社内のサーバールームで動いている基幹システムについて、「サーバーの保守期限が近い」「担当者が1人しかいない」「テレワークから使えない」といった課題を抱えていませんか。こうした背景から、基幹システムのクラウド化を検討する企業が増えています。一方で、「クラウドにすれば安くなるのか」「セキュリティは大丈夫か」「何から始めればよいか」がわからず、判断を先送りにしているケースも多く見られます。
この記事では、基幹システムのクラウド化とは何か、メリット・デメリット、移行方式の選び方、移行の手順と費用の考え方を発注者の目線で解説します。
- 基幹システムのクラウド化には、サーバーをクラウドに移す方法と、SaaSや作り直しに乗り換える方法があります。
- 主なメリットはハードウェア管理からの解放、災害対策、場所を選ばない利用、拡張のしやすさです。
- 費用は必ずしも安くなるとは限りません。5年程度の総費用で比較しましょう。
- 移行は現状調査→方式選定→設計→移行リハーサル→本番切り替えの順で、データ移行と連携の確認が要です。
目次
基幹システムのクラウド化とは
基幹システムのクラウド化とは、自社内のサーバー(オンプレミス)で運用している販売・購買・在庫・会計などの基幹システムを、インターネット経由で利用するクラウド環境へ移すことです。クラウド環境には、AWSやMicrosoft Azureなどのサーバー基盤を借りる「IaaS」と、完成したアプリケーションを利用する「SaaS」などの形態があります。
クラウド化は「サーバーの置き場所を変える」だけの場合もあれば、「システム自体を作り直す・乗り換える」場合もあります。どこまで変えるかによって、費用・期間・得られる効果が大きく変わる点を最初に押さえておきましょう。
基幹システムをクラウド化するメリット・デメリット
メリット
- サーバー機器の購入・更新・故障対応が不要になる
- データセンターの設備で災害・停電への備えがしやすい
- 拠点や自宅など場所を選ばずに利用できる
- 利用者やデータ量の増減に合わせて性能を調整できる
デメリット・注意点
- 利用料が毎月かかり、構成次第では割高になる
- インターネット回線の品質に操作性が左右される
- 古いシステムはそのままではクラウドで動かないことがある
- セキュリティ設定の責任は利用者側にも残る
とくに誤解が多いのがセキュリティです。クラウド事業者は基盤の安全性を担いますが、アクセス権限の設定、パスワード管理、データのバックアップ方針などは利用者側の責任です。この「責任共有」の考え方を理解したうえで、設定と運用を設計する必要があります。
クラウド化を検討すべきサイン
- サーバーの更新時期:機器の保守期限やOSのサポート終了が数年以内に迫っている
- 管理者の不在:サーバーの管理が特定の1人に依存している、または外部任せで中身がわからない
- 利用場所の制約:拠点や外出先、自宅から基幹システムを使いたいという要望が多い
- 災害への備え:社内にしかデータがなく、被災時の事業継続に不安がある
複数に当てはまる場合は、次のサーバー更新を待たずに検討を始めることをおすすめします。
クラウド化の3つの移行方式
基幹システムのクラウド化は、既存システムをどの程度変えるかで大きく3つの方式に分かれます。
| 方式 | 内容 | 費用・期間 | 向いているケース |
|---|---|---|---|
| そのまま移す(リホスト) | プログラムはほぼ変えず、クラウド上のサーバーに載せ替える | 比較的小さい | システムの機能には満足しており、サーバー老朽化が主な課題 |
| 作り直す(リビルド) | 業務を見直し、クラウド前提の構成で新たに開発する | 大きい | 機能面の不満も大きく、今後の拡張性を重視 |
| 乗り換える(SaaS移行) | クラウドで提供される既製サービスに切り替える | 初期は小さめ、月額が継続 | 業務が一般的で、製品に合わせられる |
リホストは早く・安く移せる一方、古い仕組みの課題はそのまま残ります。システムの寿命を延ばす「時間稼ぎ」と割り切り、その間に作り直しを計画するという段階的な考え方もあります。各方式の詳細は次の記事で解説しています。
関連記事レガシーマイグレーションの手法(リホスト・リライト・リビルド)
基幹システムのクラウド移行手順
クラウド移行の5ステップ
- 現状調査サーバー構成、OS・データベースのバージョン、利用者数、他システムとの連携、データ量を洗い出す
- 方式選定と費用比較リホスト・リビルド・SaaS移行の候補を、5年程度の総費用と効果で比較する
- クラウド環境の設計ネットワーク、アクセス権限、バックアップ、監視、障害時の復旧手順を設計する
- 移行リハーサルテスト環境へデータを移し、業務操作・連携・性能を確認する
- 本番切り替えと運用開始業務の少ない時期に切り替え、旧環境は一定期間残して切り戻しに備える
見落としやすい確認ポイント
- 周辺機器・連携:帳票プリンター、バーコード端末、取引先とのEDIなどがクラウド環境でも動くか
- 回線:拠点のインターネット回線の速度と、回線障害時の代替手段
- ライセンス:データベースやミドルウェアのライセンスがクラウド環境で使えるか
- データの保管場所:取引先との契約や業界ルールで、国内保管などの条件がないか
- 運用体制:クラウドの監視・障害対応・費用管理を誰が担うか
データ移行の詳しい進め方は次の記事を参考にしてください。
移行後の運用で決めておくこと
クラウド化はサーバー機器の管理から解放される一方、クラウド特有の運用作業が新たに生まれます。代表的なのは、利用料の毎月の確認、アクセス権限の棚卸し、バックアップの復元テスト、クラウド事業者からの仕様変更やメンテナンス通知への対応です。これらを社内で担うのか、開発会社や運用会社に委託するのかを移行前に決めておかないと、「移したものの誰も面倒を見ていない」状態になりかねません。
また、障害発生時の連絡経路も見直しが必要です。クラウド基盤の障害なのか、アプリケーションの不具合なのか、社内回線の問題なのかを切り分ける手順を用意しておくと、復旧までの時間を短縮できます。
クラウド化の費用の考え方
クラウド化で費用が下がるかどうかは、現在のオンプレミス環境のコストと、クラウドの構成次第です。比較の際は、サーバー購入費だけでなく、保守契約・電気代・設置場所・担当者の作業時間も含めて考えましょう。
上の図は費用の構成を比べる際のイメージで、実際の金額は構成や規模によって大きく異なります。クラウドは使った分だけ費用がかかるため、使っていないサーバーを止める、性能を適正化するといった運用で費用を抑える余地があります。逆に、初期設定のまま放置すると想定より高くなることもあるため、移行後も定期的に見直す体制が必要です。
よくある質問
- 基幹システムをクラウド化するとセキュリティは下がりますか?
- 適切に設定すれば、社内サーバーより安全性を高められる場合も多くあります。ただし、アクセス権限や多要素認証、バックアップなどの設定は利用者側の責任なので、設計と運用ルールをしっかり決めることが前提です。
- 古い基幹システムでもクラウドに移せますか?
- OSやデータベースのバージョンによっては、そのままではクラウドで動かないことがあります。その場合は、バージョンアップを伴う移行や、作り直しを検討します。まず現状調査で動作条件を確認しましょう。
- クラウド移行にはどのくらいの期間がかかりますか?
- そのまま載せ替える場合は数か月程度、作り直す場合は1年以上かかることもあり、方式と規模によって大きく異なります。業務の繁忙期を避けて切り替え時期を決めることも大切です。
まとめ
基幹システムのクラウド化は、サーバー管理の負担軽減や災害対策、場所を選ばない利用といったメリットがある一方、費用が必ず下がるわけではありません。「そのまま移す」「作り直す」「乗り換える」の3方式から、課題と総費用に見合うものを選び、周辺機器や連携を含めた現状調査から着実に進めましょう。
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